弁護士のあたまの中

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

【弁護士のトリセツ】契約書チェックを依頼する。

 弁護士の業務として、日常的な業務のひとつが契約書のチェックです。

 みなさん、取引基本契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書などを、顧問や知り合いの弁護士に、「この契約書見てもらえませんか?」と依頼されると思います。このとき、何の情報もなく、ある日突然契約書だけを渡されて「みてください」と言われるのは、弁護士にとってとても厄介な仕事です。

 

 契約書のチェックを依頼されたとき、私が依頼者に教えてほしい、聞きたいことはこんなことです。

 

①そもそもこの契約書は修正可能なのか?

②依頼者にとってどういう契約なのか?

③何が知りたい?何が心配?

 

①そもそもこの契約書は修正可能なのか?

 定型的な取引や、相手の会社との力関係などで、修正に一切応じてもらえないことがあります。そうすると、取引をしたいのであればどんな不利な契約でもそのまま修正なしで締結するしかありません。*1

 修正不可だと契約書チェックの意味が無いのですが、こんな場合でも、この契約は民法の原則に比べてどれだけ当方に不利になっているか、どこにリスクがあるか、取引を進めるなかで何に気を付けたらいいかなどを助言することにしています。契約書を修正できないなら、運用でリスクをできるだけ回避するためです

 

 

②依頼者にとってどういう契約なのか?

 初めて取引する相手か?長年の取引先か?

 一度きりの契約か?今後繰り返して取引する契約か?

 主要事業に関する取引か?新規事業でお試し的な取引か?

 などなどです。

 こういった情報があると、契約書をチェックする際も、どこまでリスクをとるか、絶対に譲れないところはどこかなどを判断して助言することができます。例えば、会社の主要事業に欠くことのできない取引であれば、継続性・安定性を重視する方向でチェックします。反対に、新規事業でお試し的なものであれば、いつでも撤退できるように、リスクを最小限にし、小規模、少額な取引になるように、そしていつでもコストを少なくして契約終了できないかなどを意識してチェックします。

 

③何が知りたい?何が心配?

 契約書のチェックを依頼される際には、何が知りたいか、何が心配かをできるだけお聞きするようにしています。できるだけ丁寧に、角度を変えてお聞きします。

 やはり取引の当事者は依頼者なので、その取引や相手方について一番情報を持ち、理解しているはずです。法律論ではなく、ビジネスとしてのその取引についてどんな問題があるかを聞いておかないといけません。例えば新しい素材を使用した製品を購入するなら安全性が心配になるでしょうし、新興企業相手なら製品供給の安定性、継続性が心配なるでしょう。そういった心配を教えてもらえれば、依頼者の関心に沿った方針でチェックすることができます。

 

 法務部があるような企業や弁護士に慣れてる会社であれば、このような話は当たり前というか、無意識レベルで自然にやりとりする内容かもしれないですね。依頼の最初の段階から事情説明をしてくれたり、簡単なメモを作成して渡してくれる会社さんもあったりして、弁護士としては大変ありがたいです。

 しかし、そうでない会社さんの方が多いと思います。弁護士と一緒に仕事をした経験のある人は全体から言うと少数派でしょうから仕方ありません。ですので、弁護士に電話して10分ほど説明するだけでも全然違いますので、是非やってみてください。

  

 

*1:昔話になりますが、取引基本契約は2000年くらいまではかなり不平等な契約が横行していました。支払代金を特に理由なく一部留保することなどは当然で、しかも極端な場合は、取引終了時以外は返金されないような契約もありました。2003年の下請法改正のころからだんだんと公平なものが増え、いまでは明らかに不公平な契約書はあまり見なくなりました。