弁護士のあたまの中

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

約束手形の廃止

昨日このようなニュースが流れてきました。

www.nikkei.com

 

Twitterでも書きましたが、約束手形の廃止自体は大賛成ですが、いろいろ問題も生じてきそうです。

 

約束手形は、振り出す(「手形を切る」といいますね。)会社からすると手形で支払うことでサイト(60日とか90日とか)の分だけ実際の資金の準備を後ろ倒しにできるので、資金負担が楽になります。
例えば、1月末に300万円の支払をするとして60日サイトの手形で支払えば、1月末に現金300万円がなくても手形決済は60日後の3月末のため、3月末までに300万円を準備すればよいことになります。これを毎月続ければ、300万円の資金で3か月分の900万円の商売ができることになり、その時期だけでみれば少ない資金で大きな商売ができることになります。

ほかにも建設業などで工事完成後に工事代金が入金される場合には、材料費や人件費を先行して支出する必要があるので、工事代金が施主から入金されるタイミングに合わせて材料費等の支払へ手形を振り出すことで資金繰りの調整を図るということもあります。

これは約束手形のメリットではあるのですが、デメリットでもあって会社の実力以上の支払債務を抱えることになりかねません。

最近は減りましたが、10年前までは破産や民事再生をする会社が90日や120日サイトの手形を振り出しており、約半年分の買掛金が破産債権になったという例は珍しくありませんでした。

 

約束手形はご存じのとおり、手形決済日に資金を準備できないと不渡となり、2回不渡りとなると銀行取引停止処分となります。実際には1回目の不渡りで信用不安が生じ、事実上の倒産になることがほとんどです。手形不渡りを出した会社と取引しようという業者はほとんどいないですからね。

このため、約束手形を振り出している会社の事業再生を行うときは、手形決済ができるかどうかが非常に重要なポイントになってきます。手形決済ができないのであれば、破産や民事再生といった法的手続を選択せざるを得なくなります。手形でなければ交渉して支払いを延期してもらったり、分割にしてもらったりできるのですが、手形の場合既に銀行に取立や割引に出しており、交渉をしようとしても受け戻しできないことも多く、事業再生のネックになることが多いです。

 

私は約束手形は便利な反面、融通が利かないため、利用しない又は廃止したほうがよいという考えです。このため、報道された約束手形の廃止については賛成しています。

 

約束手形の問題は他にもあって、手形を受け取る側が実際の資金として利用できるのが数か月先になることです。このため手形で支払いを受ける中小企業は銀行や専門業者に手形割引をしてもらい現金化するのですが、この割引料が年利5~6%やそれ以上になること、別途手数料を取られることなどもあり、実質的に資金が目減りする結果となります。

手形が廃止なれば、今後はファクタリングの利用が多くなると思いますが、これも費用が割と高く、中小企業への影響は小さくありません。

 

報道のとおりになるとすれば、約束手形の廃止に向けて金融機関も進むことになりますので、利用者側も対応を迫られることになると思います。

約束手形の廃止をするためには、ある程度の時間をかけて少しづつ廃止していくしかありません。実際に私が関わった会社の何社かはここ数年で手形の発行枚数を減らす若しくは0にしています。

 

そういえば、約束手形が廃止になれば、M&Aや事業再生のDDで手形帳の確認をして、所在不明な手形がある!とか大騒ぎしなくて済むようになるのは、この分野の弁護士にとっては朗報かもしれません。