弁護士のあたまの中|弁護士萩原貴彦のブログ

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

偽造書類の見分け方

7月19日に最高裁監査役の責任についての判決がありました。

 

www.nikkei.com

私も中小企業の監査役を引き受けることがありますし、現在、上場会社の社外監査役もしています。監査役の責任について実務的な影響がどれくらいあるのかは関心をもっています。

この判例について、会社法を専門とする実務家の分析や学者らの判例評釈も近いうちに出てきますので楽しみにしてます。

 

この裁判の原審の判決を読んでいて気になったのが、監査役が、偽造された預金の残高証明書のコピーしか確認しておらず、原本となる資料を確認していなかったことが問題になっているという点です。

過去に通帳や決算書の偽造をいくつも見てきましたが、どれも原本ではなく、コピーが使用されていました。偽造した書類を「これが原本です」と相手にみせるのではなく、「原本をコピーしたものです」と渡すのです。

当たり前のことですが、通帳や決算書をいちから作り出すのは技術的にも難しいです。既に実在する通帳や決算書をコピーして、その一部を修正するなどして偽造するほうが簡単です。

コピーなどを利用した偽造は、技術としては稚拙なことが多いようです。通帳の預金残高の数字のフォントや大きさが若干違う、文字が傾いている、罫線が歪んでいる、などの初歩的なミスがよく見られます。

ある裁判で、相手方が、権利者の捺印済みの委任状があると主張して、その委任状の原本を証拠として提出してきましたが、印影の周りにうっすらと不自然な線があり、印影を拡大して観察すると朱肉で捺印したものではなく、カラーコピーで作成されたものでした。もちろん委任状は偽造であるとして、こちらの勝訴となりました。

 

もっとも、Photoshopなどの画像加工ソフトを利用することにより、素人目では判別がつかないような加工が可能になっています。

つい先日も決算書を数年にわたって偽造していた会社の調査をしたところ、最初のころはある特定部分のフォントに違和感があり偽造部分が特定できましたが、途中から違和感がなくなり、偽造部分を判別できなくなりました。よく聞いてみると、過去はカッターナイフと糊で切り貼りしていたが、最近は画像加工の技術をもった外部の人物にPCで加工させていたとのことでした。

今のPCによる画像加工の水準では、素人がいくら頑張ってもその書類の見た目だけで偽造を判別することは難しくなってきているようです。

 

 

そうすると、偽造を見分ける(防ぐ?)一番確実な方法(それでも100%ではないですが)は、コピーではなく、原本を確認することです。通帳の原本を確認する、ネットバンクならログインするところから確認しつつモニタ画面に映った取引履歴を確認する、決算書なら税務署の受付印がある原本を確認する、などです。こういった作業を面倒くさがらず地道にやるしかありません。

原本を見せてほしいというと、私を信用しないのかと怒り出す人がいるかもしれませんが、気にする必要はありません。「自分は信用しているけど、決まりなので」「業務上やむをません」「ほかのケースでも機械的にお願いしています」「ほかの資料と矛盾しているので確認のため」などといえば、だいたいは了解してもらえます。これでも拒否する人は実際に偽造しているか、ことの重要性を理解していないので、お付き合いすべきでない人でしょう。

 

ただ最近は原本を確認すれば偽造を見分けられる、と簡単にいえなくなってきました。

紙の書類で原本が作成されることが減ってきており、クラウド上のデータとして存在する、PDFでメールでやり取りをしPCやサーバーに保管する、というケースが増えてきています。実際、コロナの影響でよりWEBでのやりとりで完結することが増えてきていますので、今後もさらに増えていくことが予想されます。

この場合、紙の原本と違い、データとして存在するだけなので、物理的な唯一性、実在性がなくなり、原本とコピーの区別がつきにくくなっています。

 

 

 

もう一つの偽造書類に騙されない方法は、自分の勘を働かせることです。右脳的な判断といってもいいでしょう。

 

「なにかおかしい」という勘です。

 

普通預金の通帳なのに端数がなく切りのいい数字が並んでいる、普段は数十万円の入出金しかないのに突然数百万円の入金がある、今まで取引したことのない無名の会社に何千万円もの多額の売掛金が発生している、などなどです。

この勘は経験に裏打ちされている勘なので、信じていい勘です。

 

そして「なにかおかしい」という勘が働いたら、理屈で検証します。

 

自分の過去の経験と矛盾するような、「なにかおかしい」と感じるような事実があれば、

①なぜそんなことが起きているのか疑問に思い、理由や原因を推測すること

②その疑問点について相手に説明をしてもらうこと

③その説明をきいて客観的な裏付けをとること(ネットでググってもいいですし、第三者にきいてもいいです。)

 

お金を貸した取引先の会社から、返済日を伸ばして欲しい、もうすぐ大きなお金が入ってくるから大丈夫、社長個人でもお金はあるから大丈夫と通帳のコピーを見せられたが、なにかおかしいと相談を受けたことがあります。

案の定通帳の残高が偽造されていました。個人で結構なお金があるのに貸金業者でないただの取引先にお金を借りて、しかもわざわざ個人の通帳を見せるのは普通のビジネスでは滅多にありません。

「なにかおかしい」という勘が働いたケースです。(もちろんすぐに回収に動きました。)

 

この勘を働かせるというのは意外と重要だと思います。