弁護士のあたまの中

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

裁判をすべきとき、すべきでないとき①

 会社を経営していくうえで、どうしても紛争やトラブルに巻き込まれることがあります。紛争解決の手段として、裁判を何度もしたこともある会社もあれば、いままで裁判をしたことがないという会社も実は珍しくありません。

 裁判の経験がないと、どうしても裁判をしたくない会社がある一方で、すぐに裁判しようとする会社もあります。

 裁判をすべきとき、すべきでないときとはそれぞれどんなときでしょうか。具体例の前に、裁判のメリット、デメリットを考えてみます。 

 

まず裁判のデメリットです。

① 時間がかかる。
 令和3年のデータでは、地方裁判所における通常訴訟の平均期間は10.5か月、判決までした場合は14.6か月となっています(裁判所データブック2022)。もちろん控訴した場合にはさらに半年ぐらいはかかりますので、2年弱の時間がかかることになります。ただし、簡易な事案、証拠がはっきりしている事案、相手が出てこない場合、和解で終わる場合には比較的短期で終わることもあります。


② 費用が掛かる。
 弁護士費用(着手金と成功報酬の合計額)は、当該訴訟で扱われる経済的利益(≒訴訟の請求額)の6%~24%あたりが多いようです。これは経済的利益の大きさによっても変わります。今は自由化されているので弁護士によってかなり異なります。また証拠として不動産鑑定評価などを取る場合には費用がかかりますし、強制執行などで不動産の明渡し断行などになると執行費用がかかります。


③ 裁判で勝っても、回収できるかどうかはわからない。
 例えば100万円を支払え、という判決をとったとしても、相手が任意に支払ってくれればいいですが、払ってこない場合には強制執行をする必要があります。相手に財産があれば強制執行で回収できますが、もし財産がなければ(見つからなければ)回収することができません。

  
④ 裁判の準備や対応で忙殺される。
 簡単な事案であればよいのですが、弁護士からのヒアリング、証拠の準備、裁判に提出する書面の確認、証人尋問の準備などを訴訟中は何度も行うことになります。この手間が精神的にも時間的にも大変です。


⑤ 相手との関係が悪化する。
 裁判になる場合はすでに取引停止していることが多いと思いますが、たまに円満に取引を継続している途中でも、裁判に至ることがあります。その場合、裁判をきっかけに取引停止になることがあります。

 

次は裁判のメリットを考えてみます。
① 強制的に決着がつく
 任意での話し合いだとお互いに譲れなくなり、途中で協議が膠着してしまうことがあります。また、相手が話し合いに応じない場合や連絡がとれない場合にも、強制的に裁判の場に呼び出せます。裁判となると、和解にしろ判決にしろ最終的には何らかの結論が出ますので、膠着状態を打破することができますし(ただし、自分に有利な結論がでるとは限らないのが痛いところです。)、相手も必ず対応しなければならないので(欠席すれば敗訴する)、強制的に何らかの決着がつくことになります。

 

② 強制的に権利の有無や法律関係が確定する、権利が実現できる

 勝訴判決となれば強制執行ができますので、強制的に財産の差押えや登記の変更、不動産の明け渡しなどができるようになります。相手が非協力的でも強制的に権利を実現できます。また、判決で法律関係が確定することで、後で実は違ったのに、という反論を封じることができます。

 

③ 公的な第三者の判断がもらえる

 裁判所は中立・公正な第三者なので、裁判所が出した判決の結論には信頼性があります(裁判所が間違えることも絶対にないわけではないですが)。判決でこうなったから、といえば、当事者の恣意性は排除されるので、判決に従う限りは、その行為の判断について官公庁などから咎められる、否定される可能性は低いといえるでしょう。また世間への説明にも有効です。

 

裁判のメリットとデメリットは他にもいろいろありますが、代表的なものはこんなところかと思います。

次回の記事で、具体的なケースで裁判をすべきか、すべきでないか、考えていきます。