弁護士のあたまの中|弁護士萩原貴彦のブログ

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

一人会社における役員の善管注意義務に関するメモ

 

上記tweetの論文が業務的によくある場面だと思うので少し自分のためにも整理してメモとして残しておきます。裁判例の具体的な内容については踏み込みませんが…

一人会社とは要は株主が一人だけの会社のことですが、100%子会社はもちろん、合弁会社やファンド出資などの少数の株主で株主が共同関係にあるような会社、オーナー経営者の下でグループを形成している会社では一人会社と同様の問題が生じます。

一人会社であろうと株式会社ですから、その取締役は株式会社に対し善管注意義務(ここでは忠実義務とは区別しません)を負います。問題は一人会社の株主の指示に従った(又は株主が自ら直接行為をした場合の)取締役について善管注意義務違反があり会社に損害を与えたとして、会社法423条(旧商法266条1項5号)によって損害賠償請求をされた場合の責任についてです。

上記ジュリストの論文によると公刊裁判例は以下の6事件
名古屋高裁金沢支判昭和48.4.11判時708号89頁
②東京地判昭和61.10.30判タ654号231頁
③東京高判平成15.9.30判時1843号150頁
水戸地裁土浦支判平成29.7.19判タ1450号240頁
⑤東京地判平成20.7.18判タ1290号200頁
⑥東京地判平成31.3.22判タ1474号249頁

①~④、⑥は損害賠償請求を否定、⑤のみ肯定です。

それぞれの理由付けですが、結構バラバラです。
①株主兼代表取締役の不当行為について名目的な取締役の責任を問うことは信義に反する(請求者は破産管財人
②事実上のオーナーの指示に従ったのであるから経営者の判断として明らかに不合理とはいえないとして忠実義務違反なし
善管注意義務を免除されていたといえる
④株主の事前承認がある又は権利濫用である
⑥法令定款違反、債務超過状態などの特段の事情がない限り一人株主の意思決定を尊重すべきであり任務懈怠はない
としています。

一方、⑤については忠実義務違反があるとしたうえで、取締役の責任免除には総株主の同意と免除の意思表示が必要であり、免除の意思表示がないので損害賠償請求肯定となっています。総株主の同意を必要とするところまではわかりやすいですが、免除の意思表示まで必要とする結論は相当厳しいように思います。(上記の裁判例で免除の意思表示をしていたと明らかに認定した裁判例はなかったように思います。読み飛ばしていたらすみません。)

それぞれの裁判例の事実認定を前提とする限り、筋としては違和感がなく、結論は肯定できるものばかりです。⑤は唯一の損害賠償肯定の事例ですが、被請求者の取締役が同時に一人株主であったことが他事例と異なります。取締役の不当行為によって利益を受けたのがその被請求者である取締役兼株主(及びその関係者)という側面も大きそうです。

 

判例の理由付けはそれぞれですが、子会社、ファンドなどの投資先の会社、オーナー会社などの一人会社の取締役の善管注意義務違反について、株主や取締役が注意すべき事項は下記の点かと思います。

1)一人会社の取締役が株主の指示に従った場合でも無条件に善管注意義務は免除されるとは考えない方がいい。特に法令定款違反や債務超過状態の場合には善管注意義務違反を免れない可能性が高い。取締役は一人株主に対し、法令定款違反等を通知する義務があるとされることがある。
2)損害賠償請求否定の裁判例は、日常の業務についても株主が直接意思決定しており、被請求者は名目的な取締役にすぎないことが多いのにも注意。取締役が通常通り経営実務を行いつつ裁量があるなかで意思決定が可能なようであるなら、善管注意義務違反を免れない可能性もでてくる。
3)善管注意義務違反の免除には、総株主の同意(株主総会の決議)だけではなく、免除の意思表示まで必要と考えるべき。

4)あくまで対会社、対株主に対する責任の問題であり、債権者などの第三者に対する責任とは別である。

 

特にM&Aなどで子会社の譲渡を行うときは、過去の取締役の責任について総株主の同意(株主総会の決議)に加えて、免除の意思表示をしておくということも検討対象となりそうです。
少なくとも私の知る限りでは、このような措置を子会社の譲渡に際して行ったというケースはありませんでした。

また、破産法などの倒産法との関係では、管財人による役員への損害賠償請求(査定について破産法178条)との関係も検討したほうがよさそうです。管財人が総債権者の利益代表者である側面を注意しなければならないのではと思われます。