弁護士のあたまの中

倒産・事業再生・事業承継・M&A・下請法・中小企業の法務を中心に活動/弁護士が何を考えているかを伝えられれば。/主に中小企業の経営者、幹部さんに。

M&A仲介の規制

 M&Aは売る会社と買う会社があって成り立ちます。

 私も事業再生の一環で特に中小企業のM&Aは多数取り扱ってきましたが、案件数でいうと概ね売主側で8割、買主側で2割ぐらいのイメージです。

 M&Aの成否のポイントはいくつもありますが、最初の難関は、M&Aの相手を見つけることです。売主側からみた場合、最初に何らかの理由で会社又は事業の一部門を外部に売却しようと考えます。従来からの例だと、自分の取引先や知り合いの経営者に直接声を掛けたり、取引銀行の紹介などにより買ってくれる相手を探したりすることが多いのですが、もちろんM&Aの仲介業を専門にする人たちもおり、多くは証券会社、監査法人、銀行などの一部門や関連会社だったり、その出身者らによる会社だったりして、そこに依頼することも多いです。

 ところが、近年、すこし違う属性のM&A仲介が非常に活発になってきました。いわゆるM&A仲介会社と呼ばれています。具体名はあげませんが、ネットで「M&A」と検索すれば、すぐに広告が表示され、検索順位も上位に挙がってくる会社です。

 それまではM&A仲介というとあまり一般向けには宣伝をしないで人脈で案件を探すことが多く、どちらかといえば「玄人向け」のイメージが強かったといえますが、新しい仲介会社はWEB広告やセミナーなどの情報発信を積極的に行うことで、それまでM&Aにあまり縁がなかった会社や経営者に直接働きかけています。

 この新しいM&A仲介は大当たりで、新しい市場を創造したといえるでしょう。いくつかの会社は業績好調で上場し、好業績で高い株価をつけています。

 

 このM&A仲介について、2020年12月に少し大きなニュースがありました。

www.taro.org

双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています。

中小企業庁は、「中小M&Aガイドライン」を策定し、売り手と買い手双方の一者による仲介は利益相反となり得る旨を明記し、両者から手数料をとっているなどの不利益情報の開示を徹底するなどリスクを最小化する措置を講じること、他のM&A支援業者などにセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とすることを求めています。

中小企業庁は、来年3月までにそれらをさらに徹底する措置を確定し、来年夏までにその仕組みが動き出すように務めています。

 

 このブログの河野大臣は、2021年の年明けにも同様の発言を繰り返したようで、株価にも影響が出始めました。

 

www.nikkei.com

 

 私も個人的には、M&A仲介に規制が入ることはやむを得ないし、規制をすべきだと考えています。

 過去の経験上、こういった新興M&A仲介に依頼する売主はM&Aの経験がない経営者が圧倒的に多く、どう判断したらいいかわからない、仲介を信用してお任せするしかない、というケースが少なくありません。

 決して今のM&A仲介が信用できないとか、不公平とかいうつもりはありませんが、M&Aの性質上、買主と売主という利益の対立する当事者の間に立ち、双方から依頼を受けるので、そこに公平性や透明性を担保する仕組みが必要なことは間違いありません。

 他の業界でいうと、例えば、不動産の売買では不動産仲介会社は宅建の免許が必要ですし、宅建業法によりやるべきこと、やってはいけないことが明確にされています。これに違反すれば監督官庁である国土交通省地方自治体から処分を受けることになります。

 また、弁護士でいえば、弁護士法で対立当事者から依頼を受けることは禁止されていますし、仲介的、調整的な業務を依頼されるときも関係当事者全員の同意が例えあったとしても厳しい条件のもと例外的にしか認められないものとされています(解説弁護士職務基本規程第3版 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著)。

 

 M&A仲介は、現在、規制する法律も監督する所管官庁もありません。仲介という難しい業務を行ううえでは、今後規制が入るようになるのはやむを得ないと考えます。

 ただ規制が入るとしても、M&A仲介会社の存在意義は依然高いと思います。なぜなら、彼らの案件の発掘能力はとても高く、買主の探知実績も豊富でまさにそこに高い価値があり、特に中小零細企業M&A、日本の課題となっている事業承継の推進には欠かせない存在であると思います。

 

 最後に一つだけ苦言すると、個人的な経験のなかで多くはありませんが、仲介と言いつつ、M&Aの条件交渉や契約の修正、助言をする仲介会社の例がいくつかありました。当職が関わっているときは、「やさしく」それは止めるようにお願いしています。

 当事者である本人、会社以外が直接M&Aの条件交渉や契約書の修正、助言をすることは弁護士法に明確に違反します。

 ともすれば会社として認知していなくても、担当者個人レベルでギリギリの行為をしているケースもあると思いますので、注意していただきたいと思います。